虫と歌

市川春子さんの初単行本『虫と歌』はいくつかの不思議な話が詰まった短編集で、一つ一つは短くサクサク読めるのにその発想がとても豊かでいつまでもその世界観に浸ることができる素敵な作品です。
イラストもとても独特ですがかわいらしく、女の子も男の子もすごく生き生きして見えるのが市川さんの作品の特徴なのではないかと思います。

例えば星の恋人という作品は男子高校生になった主人公は実は植物人間であるという秘密を叔父から打ち明けられ、幼いころに事故で切断してしまった自らの小指から作られた妹と再会し、恋心に近い感情を持つようになります。
叔父と自分と小指からできたクローンのような妹の3人の奇妙な生活と奇妙な関係は不思議な空気をはらみつづけます。
それでもなぜか見ていてすごく美しく、独特のセリフ回しにいろいろと考えるものがありました。

また表題作にもなっている虫と歌は虫を擬人化させる実験を続ける男とその家族の悲しい話を描いたもので最後の秘密に見ていてすごく切なくなってしまいます。
しかしどんな辛いことも登場人物たちがありのままに受け入れて淡々とその事実を語っている姿がとても美しく描かれていて印象的でした。

今まで短編集というものはあまり興味がなく購入することはまずなかったのですが、この虫と歌はどうしてか表紙を見てすぐに購入を決めた初めての漫画でした。
そして購入してからしばらくたちますが未だに何度も読み返し、そのたびに収録されている作品の好みが変わったり、一つ一つのセリフに対して感じることが変わったりとらえ方が変わるので面白いなぁと思います。
初めて読んだ時には読み取れな勝った登場人物の心情も今になってわかるような気がしたりまだまだ奥深さを感じます。

市川春子さんは他にも短編集を出していますし、連載漫画も今は掲載しています。
どちらも同じようにお勧めなのでぜひ読んでほしいと思います。